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ニューカマー児童・生徒の抱える教育問題①

 あなたの周りに外国人はいるだろうか。日本へ旅行する外国人数は2009年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の年にはぐっと落ち込んでいるものの、訪日する外国人は年々増大しており、2016年には約2400万人にもなる。今年の7月時点で既に1600万人を超えているので、すぐに昨年度を上回るだろう。2015年度が約1973万人であることを考えてもかなりの上昇であるが、10年前が733万人ということを考慮すると各所がかなり頑張っている結果といえよう。自分は近畿圏に住んでいるので梅田や難波、京都といった場所によく出掛けるが、「ここは外国かな?」というレベルで外国人を目にする機会が多い。特に中国、韓国、台湾、香港からが多く、観光業や飲食業をはじめ、大手電機メーカーや薬局、交通関係からすると有り難い限りである。京都の観光名所や河原町や三条、京都駅なんかは外国人だらけで、日本人の方が少ないような印象も受けるし、自分たちが外国にいるような感覚さえする。


 近くに外国人はいますかと冒頭で問うたが、訪日外国人の話ではない。「日本に在留する外国人」のことである。理由は後述するが、在留外国人の数は70年代より増加してきており、それに呼応するように小中高で学ぶニューカマー児童生徒数(NC児童生徒)も上昇している。学校内における児童生徒の国際化がなされることにより、国ごとに異なる文化や思想、宗教等に触れやすい環境が生まれる。今後、流入する外国人が増加することを考えると、様々な生き方や言語に触れ、自分と異にする考え方をありのまま受け入れ、尊重していく姿勢はこれからの日本社会で生きる子どもたちにとって必要な視座になるに違いない。学校に通うNC児童生徒が多くなるにつれて同時に出てくるのが「教育問題」である。


「教育問題」等の諸問題は社会構築主義概念(social constructionism)であり、人々がとある社会現象を問題としない限りそれは問題ではないとされている。その概念を1966年の著書「現実の社会的構成」でアメリカで有名にした米社会学者バーガーと独社会学者ルックマンによれば、
 「全ての認識は、日常生活の常識扱いされ軽視されているものまで含めて、社会的相互作用を基にして構築され、維持される。人々は相互作用を通じて、互いの現実認知が関連していることを理解する。そして、この理解に立って行動する時、人々が共通して持っている現実認知が強化される。この常識化した認識が人々によって取り決められると、意味や社会制度が客観的現実の一部として現れるようになる。この意味で、現実とは社会的に構築されたものである。」ということだ。


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簡潔に言うと、教育問題の場合は「学校構造なり体制や方針なりに問題があると主張する人がいて、その人の理論や考えが社会に広まり、浸透することによりそれは問題となる」ということである。
 「日本人の」教育問題はご存知の通り、ゆとり教育や学力低下(実際には低下ではなく二極化)やいじめ、不登校、就職難とこのあたりだろうか。教育評論家や研究者がフィールドワークで明らかにしなければ、子どもらの抱える課題は社会に表出し、問題とされず政策や対抗策なども充実しないわけである。なんにせよ、教育問題は時代とともに移り変わっている。70年代以前に日本の学校において問題とされていたのは経済的家庭的理由から進学できなかった「教育の不足」であり、また今よりも厳しい受験に対するプレッシャー、精神的負荷や葛藤の中で起こる非行も当時は社会問題とされた。21世紀になり、知識基盤社会の到来、就労体系や経済状況の変化のよりにこれから生じる問題も予期しないようなものがものになるだろう。日本人の子どもや学校が抱える問題も深刻ではあるが、端的に言うとNCは日本人よりも厳しい現状に置かれているといわざるを得ない。それは日本語が不自由な傾向にあるといった言語的な問題のみではなく多岐にわたる。「日本語ができないから授業についていけない」くらいの認識で彼らの困難を考えることは非常に危険で、そういった認識が結果として彼らの進学や就職、社会進出を阻む。


 法務省によると平成28年度末の段階で日本で定住している外国人は中長期在留者が204万3872人、特別永住者数は33万8950人。これらを合わせると合計で238万2822人となる。前年度末と比較し、15万633人(6.7%)の増加で、過去最高の数となった。10年前の平成18年度末で198万9864人なのでなかなか増えている。内訳は中国が69万5522人、韓国が45万3096人、フィリピンが24万3662人、ベトナムが19万9990人、ブラジルが18万923人である。その中で公立学校において外国籍を有する児童生徒数は約8万人、日本語指導の必要な生徒(「日本語で日常会話が十分にできない児童生徒」及び「日常会話ができても、学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じており、日本語指導が必要な児童生徒」)は三万人ほどおり、全体の約四割程度となっている。

 ざっとであるが日本において定住外国人増加の経緯を辿る。1972年に日中共同声明により国交正常化が行われ、それまで少数だった中国残留孤児や婦人、その家族の帰国が達成された結果として小中学校において児童生徒数が増加した。その後、1980年代にはインドシナ難民が定住し始めた。1975年にベトナム戦争が終結し、ベトナムとその周辺国であるラオス、カンボジアの政治体制の変化が原因で国外への難民の数が増加した。日本も1979年に国際人権規約、1981年には難民条約に批准し、インドシナ難民が増えるという結果になったこともあり、在日外国人に対する政策の整備や改善の契機となり、「第二の開国」と呼ばれた。

 その後、90年には入管法(出入国管理及び難民認定法)が改正されたことにより、日系二世・三世及びその家族が三年間滞在可能(延長可)「日本人の配偶者等」「定住者」査証の発行の認可が下りた結果、労働者としての活動が認められたこともあり、渡日する外国人は出稼ぎなどを目的とし増加した。といったような経緯でNCは増加してきており
それに伴ってNC児童生徒も全体ほどではないものの、少しずつ増加傾向にあるため、彼らの今後の社会進出や進学率、貧困からの脱却をエンパワーする上では学校生活において抱える問題を議論し、対抗策を見出し、全国に浸透させることが急務だ。
 次回でNCが学校生活においてどのような問題に直面しているか概観し、我々ができることを考えていきたい。
 


参考文献
法務省「平成28年度末における在留外国人数について(確定値)」 2017/9/3アクセス

文部科学省「外国人児童生徒に対する教育支援に関する基礎資料」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/121/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/27/1373539_04.pdf 2017/9/3アクセス
名古屋国際センター「入管法改正後の20年を振り返る」
http://www.nic-nagoya.or.jp/japanese/nicnews/archives/1351 2017/9/4アクセス
志水宏吉(2008)高校に生きるニューカマー 明石書店